獲る漁業から、育てる漁業への挑戦

私がこの養殖事業に携わるきっかけになったのは、「獲る漁業から、育てる漁業へ」という社長の言葉でした。実際に養殖に取り組んでみて驚いたのは、サーモンが予想以上に繊細な魚だということ。全国各地の養殖場を回って勉強しましたが、環境によって適した方法が異なるため、この場所での養殖方法が確立するまでは、失敗も数多く経験しました。

私たちがサーモン養殖で重視する要素のひとつが「水」です。私たちは自然に近い環境でサーモンを育てるため、山奥の清流から取水しています。大野市に位置する「宝慶寺サーモンベース」は、豊かな湧き水が観光資源となるほど水質の良い地域です。この清らかな水をふんだんにかけ流して育てたサーモンは、臭みがなく、肉質が非常に良いのが特徴です。

ただ、海と違って雨の影響を受けやすく、増水時にうまくコントロールしないと、施設があふれ返ったり、設備が詰まってサーモンが酸欠になったりするリスクもあります。そのため、サーモンの健康と衛生管理には特に厳しい注意を払っており、サーモンに危険やストレスを与えないよう目を光らせ、チーム全体で良質なサーモンの育成に尽力しています。

この仕事では、成功よりも失敗の芽をいかに早く摘むかが重要です。過去の経験から、管理面ではリーダーとして厳しいことを言う場面もありますが、一緒に働く仲間もいいサーモンを育てたいという想いを共有し、頑張ってくれています。

サーモンを育て、サーモンに学ぶ日々。

僕は大野市にある「宝慶寺サーモンベース」で、完全陸上養殖の「ふくい名水サーモン」を育てています。僕たちは自然や生き物と向き合う仕事をしているので、サーモンがストレスなく、のびのびと育つ環境を作ることが大切です。

病原菌の侵入を防ぐ衛生管理はもちろん、いけすの水温や酸素量、給餌量など、日々変化するサーモンの様子を見極め、最適な環境に調整しなくてはなりません。エサやりもまんべんなく食べさせられるように投下する位置を工夫したり、気温や活性を見て時間をずらしたり、担当者の調整力が重要になってきます。

ある程度のマニュアルはあっても、育てる側の経験値を上乗せしていかないといけないので、サーモンを育てながら、同時に教わっている感覚です。サーモンが僕の先生と言えますね。

漁師も運送業者も団結して、美味しさと鮮度を追求。

「ふくいサーモン」は毎年11～12月にかけておおい町の養殖場にサーモンを移し、私たち海面養殖チームが翌年5月の出荷に向けて飼育にあたります。6月以降は、大野市の淡水養殖場「宝慶寺サーモンベース」にて、稚魚や「ふくい名水サーモン」の生育に携わっています。

当社は養殖事業に取り組んで10年になりますが、美味しさに直結する部分には特にこだわって独自のノウハウを作り上げてきました。餌の材料や配合、給餌量の調整はもちろん、水揚げ後も鮮度を最大限に維持するために、その場で血抜きをして氷詰めに。市場や加工場への配送も待ち時間なく運び出せるように、運送業者さんとも密に連絡を取り合っています。

当社の海面養殖は、陸上からの操作で安定して餌やりができる自動給餌機や、AIによる個体識別など、デジタル技術を積極的に取り入れています。とはいえ、養殖には海上での作業は付きものですし、地元の漁師さんとも連携して育てているので、安全のためにも仕事の段取りと現場のチームワーク、機材の管理が欠かせません。仕事中は頭も体も常にフル回転ですが、国内でも先端をゆく環境で経験を積むことができるので、やりがいは大きいです。